映画『アリスとテレスのまぼろし工場』のインタビュー:榎木淳弥さん
2023 年 9 月 15 日公開の映画『アリスとテレスのまぼろし工場』は、スタジオMAPPAによる初のオリジナル劇場アニメーション作品です。物語は、製鉄所の爆発事故によって時が止まってしまった町を舞台に、主人公の菊入正宗(演:榎木淳弥)が謎めいた同級生の睦実(演:上田麗奈)と野生の狼のような少女・五実(演:久野美咲)と出会うことで、世界の均衡が崩壊していく物語です。
作品の印象
まず、監督の岡田麿里さんの作品について、榎木さんはどのように感じているのかをお聞かせください。
榎木:大学時代に『あの花』を見たり、声優になってからは『心が叫びたがってるんだ。』に少し出させていただいたりしていた中での印象としては、人の見たくない部分が描かれた作品が多いなと思っていました。キャラクターたちはかわいかったりカッコよかったりするのに、物語の内容自体はドロっと生々しいなと。
『アリスとテレス』もまさに生々しさのある少年少女たちの物語かと思うのですが、台本をご覧になった際は率直にどのような印象を抱きましたか?
榎木:難しい物語だと思いました。1 回読んだだけでは全容を掴みきれませんでした。ですが、読み返していくうちに、キャラクターたちが求めているものへ向かっていくエネルギーをすごく感じて、熱い話だなと感じましたね。演じる上でもそういう熱さを感じるシーンでは、強く出していくように演じたいと考えました。
演じるキャラクター・菊入正宗について
榎木さんが演じる菊入正宗については、どのような印象を持ちましたか?
榎木:時が止まっていて変化が許されない世界観なので、「大人になりたい」「成長したい」とかそういう「先に進みたいけど進めない」ことに対するイラつきやちょっとした諦めなど、マイナスな感情が渦巻いているキャラクターだと思いました。マイナスな感情がすごく表に出ているので、素直なキャラクターでもあるなと。
変化のない世界で生きる
もし榎木さんが本作のように「変化が悪」の世界で生きなければいけなくなった場合、どのように行動しますか?
榎木:飽きやすいので変化があった方が飽きなくていいなと思うのですが、もし仮に自分がこの世界に入るとなったら10 年くらいは楽しいかもしれないなと。正宗の年齢であれば将来の心配もないし、とりあえず疲れないようにダラダラ生きようと思うかも(笑)。これがもっと高齢だと永遠に変わらないのはちょっとつらいと思いますけどね。とはいえ、10 年後には飽きて疲れているだろうから、現状を変えたいと思うような気がします。
アフレコ現場の難しさと醍醐味
榎木さんはアフレコ現場での収録を振り返り、どのような経験をされましたか?
榎木:「どうしてこれを言うんだろう」と考えても分からないところが多かったんですよね。モノローグとは別に語りのシーンがあって。例えば、「菊入正宗は、佐上睦実が嫌い」と自己確認のセリフとか。日常生活を送っている上でそういうのを語ることってないじゃないですか。なので、「どうやったら自然に語れるんだろう」と考えながら演じるのはなかなか大変でしたね。
榎木さんの中で「自然と語ること」への答えは出たのでしょうか?
榎木:作中に学校で「自分確認票」というシートを書くシーンがあるのですが、そのシーンの時に「菊入正宗、14 歳」と心の中で唱えているんですよね。それは自分にも思い当たる節があるなと。そうやって「どういうシチュエーションなら、心の声で語りかけることがあるのかな」と考えました。声に出せない胸の内や頭の中を言語化していく感覚ですね。
アフレコ時のディレクション
榎木さんにとって印象的だったディレクションはありましたか?
榎木:オーディションの時から「あんまり綺麗に演技しないでね」と言われていたので、それは意識していました。事前にいろいろ考えはするのですが、アフレコ本番ではあまり「絶対にこうやろう」と決めつけずに、「どうなってもいいや」くらいの気持ちで臨みました。
収録時の掛け合いの醍醐味
本作では、睦実役の上田さんと五実役の久野さんとアフレコをしたとのこと。コロナ禍では分散収録だったかと思いますが、掛け合いで収録されることへ改めて感じた醍醐味を教えてください。
榎木:相手のセリフに反応してセリフを言えるところですね。やっぱり相手役がいないのは、特殊な技術が求められるので難しいんですよ。会話の間とかを自分で考えて演じなければいけないから、頭を使い過ぎて心がだんだん動きにくくなる。なので、相手は絶対にいた方がいいと思います。
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この画像は説明のためのもので、実際の状況を正確に描写していません。