「無期懲役か無罪かは紙一重」…なぜ“責任能力”がないと無罪になるのか 神戸 5 人殺傷事件
専門家解説
神戸市で起きた家族や近隣住民など5 人を殺傷し、心神喪失を理由に無罪を言い渡された被告の男性について、大阪高等裁判所も無罪を言い渡しました。犯行は間違いないのに罪に問えないのはなぜでしょうか。
責任能力とは
被告の責任能力が争点になりました。責任能力とは、自分の行為について善悪を判断し制御できる能力のことです。刑法の39 条には、裁判で責任能力がないと判断されると「無罪」になり、責任能力が低下していたと判断されると刑を減軽すると規定されています。
医師の意見
一審では、被告の精神状態について調べた2 人の医師の鑑定結果が責任能力の有無を判断する上で重要なポイントとなりました。
A 医師の意見では、「被告は統合失調症の強い影響を受け、自分と同級生以外は『哲学的ゾンビ』であるという妄想が生じた。殺害したのが“人”と認識しておらず、責任能力はなかった」とのことでした。
一方、B 医師は、「犯行をためらうなど判断能力は残っていた」と主張し、「心神耗弱状態だった」と結論付けました。検察側もこの医師の意見などをもとに無期懲役を求刑していました。
判決
神戸地裁は一審で無罪の判決を言い渡しました。その理由は「被告人と同級生以外が哲学的ゾンビであると、妄想等の圧倒的影響下で行為に及んだとの疑いを払拭できない」としました。
大阪高裁では25 日の判決で、控訴を棄却し一審の無罪判決を支援しました。その理由として「何の恨みもない5 人もの人を殺傷するという極めて重大な犯罪行為を、同級生との結婚の実現というだけの目的で敢行する不自然さがある。自身と同級生以外は哲学的ゾンビであるという妄想を確信していた疑いは払拭できない」と述べました。
被害者遺族の反応
被害者遺族は、判決について「本日の判決は私たちの心を、もう一度殺すに等しいものでした。妄想を抱いていたとしても、それで人を殺して罰せられない理由が分かりません」とコメントしています。
専門家の意見
大阪高等検察庁は、「判決内容を精査した上で適切に対応する」とコメントしています。しかし、専門家によると、「遺族感情が介入する余地はない」との意見もあります。
納得できない遺族 しかし「遺族感情が介入する余地はない」と専門家
被害者遺族は、今回の判決に納得できていません。「妄想を抱いていたとしても、それで人を殺して罰せられない理由が分かりません」と述べています。しかし、一方で専門家によると、「遺族感情が介入する余地はない」との意見もあります。
実際に、法廷では被告の責任能力を判断するため、精神鑑定などの専門的な手法が用いられます。今回の事件でも2 人の医師が被告の精神状態を鑑定し、その結果が判決に反映されました。
刑法における「責任能力」という概念は、法の下での正当な裁判を実現するために重要な要素となっています。そのため、感情的な要素や遺族の感情を基準にすることは避けるべきだとされています。
重大な事件においても、判決には公正さと客観性が求められます。被告の責任能力の有無は、その正当性と公正性を担保するために必要な要素です。
まとめ
神戸 5 人殺傷事件において、被告の責任能力が争点となり無罪が言い渡されました。一審では被告の精神状態を鑑定し、責任能力の有無を判断するための証拠が提出されました。
刑法において「責任能力」は重要な要素であり、公正な裁判を実現するために欠かせません。感情や個人的な意見に基づく判決を避け、専門的な鑑定結果を重視することが求められています。
被害者遺族の感情も理解できる部分はありますが、法の下での公正な裁判には客観性が求められます。今回の事件をきっかけに、責任能力の判断基準などについてより深い議論を行う必要があるかもしれません。
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この画像は説明のためのもので、実際の状況を正確に描写していません。