なぜ『もののけ姫』サンの仮面は半分になるのか?その攻撃性とトランス効果を考察
物語の中での仮面の変化
1997 年に公開されたスタジオジブリの長編アニメーション作品『もののけ姫』では、主人公であるもののけ姫ことサンが赤くて丸い仮面を身につけています。この仮面は、初登場のシーンで山犬にまたがりながら牛で米を運ぶタタラ場の者たちを襲撃する姿で印象づけられます。この不気味な仮面は、観る者に強烈な印象を与えます。
しかしこの仮面は、物語の後半で半分になるシーンも存在します。タタラ場を襲撃していた時は顔全体を覆っていた仮面が、人間たちとの最終決戦に向かう際には鼻から上半分しか覆わない、いわば「半仮面」となるのです。
なぜ半仮面に変化するのか
山犬の娘として育ったサンは、人間たちから森に捨てられた過去を持っています。モロの君からは「お前にはあの若者と生きる道もあるのだが」とアシタカとの共生を示唆されますが、「人間は嫌い!」と言い放ち、猪たちと共にエボシたちと戦います。
しかし、なぜ彼女は自分の「人間の顔」の半分をさらけ出すために、わざわざ半仮面になったのでしょうか。
仮面の由来と意味
考古学や宮崎駿監督の発言から、サンの仮面について考えてみましょう。
物語の冒頭からサンが着けていた仮面は、赤くて丸い土台に目と口の穴があり、白いラインで眉から鼻筋が表現されています。この仮面は人面のようなイメージですが、呪術的で不気味さも感じられます。
宮崎駿監督は絵コンテやイメージボードで、この仮面を「土面」と呼んでいます。
「土面」とは、一般的に縄文時代の後晩期に焼き上げられた、人面をかたどった粘土の面を指します。日本の考古学者である春成秀爾によると、縄文時代の土面は少なくとも60 個あり、すべて人面をモデルにしているとされています。
そして宮崎駿監督は本作の企画書「荒ぶる神々と人間の戦い」で、サンのことを「少女は類似を探すなら縄文期のある種の土偶に似ていなくもない」と説明しています。
これらの事実から、サンの仮面のモチーフは「縄文人」であり、山犬の娘としてのサンが「自然と人間の共生」を象徴していると考えられます。
怒りの表情を映す物語終盤の仮面
物語の終盤では、タタラ場を襲撃した女性たちからの石火矢を受けて、サンの仮面は一度割れてしまいます。その際、割れ目からは怒りの表情がうかがえます。
このように、物語の進行に合わせてサンの仮面が変化することで、彼女の感情や心理状態が表現されています。仮面の半分には強い攻撃性があり、反面、割れた仮面からは怒りや苦悩がうかがえるのです。
まとめ
『もののけ姫』におけるサンの仮面は、物語の中での変化や仮面の由来を考察することで、その攻撃性とトランス効果を理解できます。山犬の娘でありながら「自然と人間の共生」を象徴するサンの仮面は、彼女の内面を映し出す重要な要素となっています。
サンの仮面の変化は、物語やキャラクターの複雑な心理描写を象徴しています。このような細かな演出や象徴的な意味を込めた作品には、宮崎駿監督の深い哲学やメッセージが込められていることが伺えます。
『もののけ姫』を視聴する際には、サンの仮面の変化に注目しながら、彼女の心の変化や物語のメッセージに思いを馳せてみることをおすすめします。
<< photo by Polina Kuzovkova >>
この画像は説明のためのもので、実際の状況を正確に描写していません。